384_意識づくりには、共用部版「内覧会」!?

防災・防犯部門

準部門賞

意識づくりには、共用部版「内覧会」!?

株式会社大京アステージ 古市 和人

背景

  • 札幌市東区にある「ザ・グランアルト札幌苗穂ステーションタワー」は、2021年1月に竣工されたばかりの、300戸からなる地上27階建のJR苗穂駅直結の高層タワーマンションで、建物内には「制振間柱」という、地震時に揺れを軽減する鉄骨が入っていました。
【提案以前の管理組合】
  • 住民の大半が「初めてのマンション」という気持ち、ときは新型コロナウイルスの真っただ中。コミュニティ形成はおろか、設立総会さえも、収容制限を行いながらの開催でした。
  • 非常用発電機や非常用エレベーターがありましたが、火災等を目的としていたため、自然災害を想定すると不便さを感じるものでした。
  • そして、新築のマンションを購入されたばかりの住民の皆さまは、「マンションの防災」どころか、「自分のマンションには、どこに何があって、どんな働きをするのか」を知らず、防災に対する意識づくりから着手しなければなりませんでした。
  • そんな中で発足した管理組合と第1期理事会は、感染症対策を取りながらも、まだあまり普及していなかったオンライン会議システムを導入すべく管理規約を改正し、毎月の理事会を運営し始めました。
  • このような中で、理事会と当社は、住民の皆さまとの合意を形成しながら共に防災計画の構築に向け取り組んできました。

目的

「これならだれもが安心!」という絶対的な信頼感のある防災計画
  • タワーマンションならではの「階段移動」を解消すること。
  • タワーマンションを要塞化すること。
  • 住民の皆さまに絶対的な安心感と信頼感を提供すること。

実施内容

意識づくりには、共用部版「内覧会」!?
  • まずは、コロナ対策を取りながら、住民の皆さまとマンションを巡ることとしました。
  • 「自分のマンションがどんなのか知りたい」、「内覧会では見れなかったところがある」、「屋上の景色が見たい」そんな思いが重なって、コロナ禍ではあったものの、マンション共用部分の見学、管理規約の読み合わせ、各種協定や容認事項(重要事項)の説明などを行い、住民の皆さまの興味関心に対して、その場で丁寧にお応えしました。
  • その模様を管理組合の広報誌へ掲載し、参加者増加を図るため周知を行い、質疑応答を掲載していきました。
  • 理事会の役員さえも「マンション暮らしは初体験」、「内覧会以外の場所は知らない」、「いきなり役員になって、なにがなんだか・・・」という思いを抱えながらも、全10回の見学イベントに分担して参加し、コミュニティ形成などに努めました。
  • その甲斐もあって、コロナ対策を講じつつも200名以上の参加があり、実際に見て、現状や課題認識を行うことが出来ました。
「要塞型」タワーマンションを作ってやろう!
  • 一般的に、「マンションの防災計画を策定しよう」と考えると、「防災用品として何をいくつ用意するか」、「マニュアルはどうしようか」という課題を考え、防災訓練を行うくらいです。しかし、このマンションの住民の皆さまの思いは違いました。「タワーマンションを買ったんだから大丈夫」という思いが強かったのです。実際にマンションの設備が有する機能と住民の皆さまの期待にはギャップがあることが判明しましたが、絶対的な安心感と信頼感を求める皆さまの期待に応えるため、大胆な発想をもとに以下を提案しました。
  • それは、災害が起きようとも「独立して電力供給を可能とする」、つまり、既存のものよりさらに大型の防災用発電機を増設するというものでした。これで、高層用エレベーター、給水システム、機械式駐車場、タワー式駐車場、オートロック、共用部照明、こうした諸設備のすべてを被災中でも使えます。
  • 理事会内でも意見が分かれたものの、最終的には「もうあんなブラックアウトは嫌!」との思いで一致しました。なぜなら、入居する前に「北海道胆振地震」を経験した方が圧倒的に多かったからです。
  • そして、防災用自家発電機の設置を含む一大事業となる防災計画を企画立案しましたが、ここで一工夫。同時に「資金回収計画」を提示しました。管理費の会計を毎年500~1,000万円程度の余剰を生むようさまざまな施策を同時提案し、積立金取り崩し分を補填する計画を提案しました。

実施結果

意識づくりには、共用部版「内覧会」!?
  • 新築マンションだったにも関わらず、住民の皆さまが「防災」・「減災」を意識して下さり、管理組合広報誌に対する反響も大きく、支持する声が増えていきました。
  • 最初は「物珍しさ」、「売主から聞いていないこともわかる」、「内覧会で見てない場所も見れる」という思いで参加される方が多かったのですが、徐々に「タワーマンション=災害に強い、ではないのかな」という疑問を持ってくださるようになりました。
「要塞型」タワーマンションをつくってやろう!
  • 非常に大胆な発想での提案でしたが、資金回収計画を提示したことにより、賛成派がグッと増え、理事会内で意見が二分していたところも、「通常総会で審議しよう」という方針となりました。
  • 通常総会において、議案化され、総会資料が区分所有者の手元に届くまで緊張するところでしたが、上記の「共用部版 内覧会」を開催した結果、賛否は、圧倒的な差をつけた賛成大多数。
  • 総会承認後、防災用発電機の設置工事が始まり、長い工期をへて、試験運転を行った結果、無事に発電機は起動し、共用部分の照明からオートロック、給水ポンプシステム、エレベーター全基、機械式駐車場からタワーパーキングに至るまで、すべての設備が問題なく稼働していることが確認されました。

苦労した点・工夫した点

要塞型マンションへの道のり
  • 大胆すぎる提案に、役員の皆さまが拒絶反応を示さぬよう、重要性と費用対効果を丁寧に何度も繰り返して説明し、役員の皆さまにこの計画の重要性を理解いただけるよう努めました。
  • 発想自体はとてもシンプルですが、導入までの道のりが険しいことは想像に難くありません。「一筋縄ではいかぬ」と考え、「防災計画」ではなく「事業」として考え、「見返りはなにか」、「実利は何か」、「投下した資金は戻るのか」等を考え、他のマンションで導入されていた管理費会計の節減施策を計画に取り入れ、単純な「防災計画」ではなく、企業のような「事業計画」として立て直し、提案しました。
  • これが功を奏したこと、また事前の共用部内覧会での意識づくりもあって、通常総会では賛成大多数で承認となりました。
共用部版 内覧会と安心信頼できる防災計画
  • 共用部版内覧会では、丁寧な説明を心掛け、管理規約集や自治体との協定書などの解説を行いながら、1回2時間にわたる内覧会を企画。大盛り上がりとなり、アンコールの声が毎年出されるようになりました。
  • タワーマンションならではの「階段移動」についても、他のタワーマンションでの事例を提供し、各階に必要な防災用品を分散配置することで、一次対応における「階段移動」を完全に除外することができました。

管理組合・居住者の声

  • 住民の皆さまからはこんな声が寄せられています。
共用部版内覧会
  • 内覧会や重要事項説明、契約時には、そこまで気にしてなかったけど、今回はよくわかった。
  • 内容が実用的。説明を聞いているだけでも、なんか安心する。
防災マニュアルや防災用品
  • 各階に防災倉庫があるのは物凄く安心感がある。場所がわかっているのですぐわかる。
  • 下まで階段で行くのかと思ったら、エレベーターホールまでだった。高齢の私も安心できます。
防災用発電機
  • 防災計画でそこまでするとは思わなかった。驚きましたが、これでこのマンションは停電に強く、ライフラインも断たれないのでは、という安心感があります。
  • 存在感のある発電機をみるたびに、「うちのマンションは災害に強い!」ということを感じます。圧倒的な安心感と信頼感のあるマンションになりました。これから長く住んでいくため、とても安心しています。

実施にかかった費用

防災計画予算として5,500万円です。
  • マニュアル制作・印刷費:60万円程度
  • 防災用品・燃料充実費:940万円程度
  • 防災用発電機設置工事:4,000万円程度
  • 予備費:500万円

収入増や支出減となった費用

  • 金銭的な収入増や支出減ではありませんが、今回の「防災用発電機」の提案を通じて、絶対的な「安心感」と「信頼感」を提供することができました。
  • その後、「マンション管理適正評価制度」において、★5を獲得し、札幌市の管理計画認定制度をも取得するに至りました。

担当者からの後述記

  • マンションの開発段階からかかわっていたため、当時の苦労話やウラ話などを住民の皆さまにお話しすることで、マンションそのものの理解度が上がり、「どこになにがあるか」、「どんな働きをするか」ということが自然に見えるようになっていくのが分かりました。
  • 他のマンションが真似をすることが難しい「防災用発電機(全設備使用可能規模)」の設置は、私が真正面から住民の皆さまの要望をカタチにした結果でした。「言うは易く行うは難し」という言葉の通り、実現までの道のりは大変険しく、私自身の発想の転換も必要でした。
  • 「防災計画」から「事業計画」へ考えを改め、資金の回収期間や実質的な効果の見える化等を行うのがなによりも大変でした。
  • 当初は私1人 対 300世帯です。なにもない、ゼロベースからのスタートは、内容理解から問題意識の共有、計画実現への現実的な方法の提示までとそのすべてが大変でしたが、今や市内でも有数の防災タワーマンションとなりました。今後はこれを継続すべく、防災訓練等の企画を続け、防災への高い意識を維持できればと考えています。