382_意識改革の切り札「マンション見学ツアー」&「だれでもできるマニュアル」

防災・防犯部門

佳作

意識改革の切り札
「マンション見学ツアー」

「だれでもできるマニュアル」

株式会社大京アステージ 古市 和人

背景

  • 札幌市西区にある団地、ザ・タワーシティ内の「ザ・サッポロタワー琴似」は、2006年2月に竣工された、214戸からなる地上40階建のJR琴似駅直結の超高層タワーマンションです。
  • また、竣工当初は北海道で、高さがナンバー1、自宅玄関から約3分で駅のホームにたどり着けるという立地でした。さらに、敷地内には「札幌市景観資産」の第1号である「日本食品製造合資会社旧工場(通称レンガ館)」のある管理組合です。上記のとおり、ハード面の価値もさることながら、札幌市景観資産等の歴史的価値もあるマンションです。そんな管理組合に持っていただきたかった意識、それは「災害への危機感」でした。
提案以前の管理組合
  • 管理組合運営に対する意識は高いものの、「災害」という未経験のものに備える意識が低い。
  • 大型の自家発電設備があるものの、使い方を理解できている組合員がいない。
  • 心のどこかで「管理会社がいるから」という他力本願な意識があったこと。
2018年の地震時に実際にあったこと
  • 地震発生直後、「エレベーターが動かない」、「発電機が稼動していない」等の連絡が続出。
  • インフラ麻痺のため自力で到着する(発生3時間後)も、1階の管理事務室前に来ていた住民はたった1人。
  • 発電機の燃料が不安の種、結局、翌朝には燃料切れにより完全に停電となりました。

目的

「だれでもできる」を意識した陳腐化しない安心感のある防災計画
  • タワーマンションならではの「階段移動」の解消。
  • 「他力本願」から「これならできるかも」への意識革命

実施内容

意識改革の切り札「マンション見学ツアー」&「だれでもできるマニュアル」
  • 住民の意識改革を行うべく、大規模な「マンション見学ツアー」を企画し、設備等の働きを説明するとともに、目で見て、触れていただくことで、理解を深めていただけるよう努めました。数ヵ月間にわたり複数回開催した結果、延べ100名以上の参加がありました。
  • 防災マニュアルは、「わかりやすさ」、「うちのマンション専用」が最重要。作成したマニュアル原稿と役員たちで撮影した写真、災害中の対応記録等の材料を、学校の教科書などを製作する専門の製作会社へ持ち込み、分かりやすさを重視した内容へ再構成することを提案しました。
  • そして、対応手順のみならず、自治体の資料等を参考に本マンションの想定被害を立て、ライフラインの復旧目途や設備の働き等、災害発生時の混乱を抑える情報を盛り込みつつ、日頃から出来る事前対策も掲載することで、「減災」を意識した構成も提案しました。
タワーマンションに立ちはだかる「高さ」という名の「高いハードル」
  • 一見、矛盾しているようですが、タワーマンションが被災したとき、なにが一番の問題と思いますか。
  • 「食べ物」、「水」、「電気」、いいえ、答えは「その高さ」です。
  • とてつもない高さのあるマンション=超高層タワーマンション。災害があったとき、ウリにしているその「高さ」こそが、住民の、文字通りの「足かせ」となるのです、「階段移動」というかたちで・・・。
  • 管理会社としては、これを乗り越えるべく、以下の事項を提案しました。
  • 階数や世帯数が多く、住民の高齢化が進んでいるため、混乱や不安の募る住民をまとめることは、誰にでも出来ることではないため、少人数かつ少しの移動で活動が出来るよう、活動範囲を「1世帯」・「1フロア」・「上下2フロア」という単位で分け、その範囲での活動手順を明確化しました。それぞれ対応手順を明確にすることを提案しました。
  • 防災倉庫は地下階にありましたが、一極集中を廃止し、「本当に必要なものを必要な場所へ」という考えの下、各階のパイプスペース等を有効活用し、住民で簡単に使えるよう必要な防災用品を分散して配置することを提案しました。

実施結果

意識改革の成功
  • 実際の対応を記録し、これを振り返ることで、本マンションならではの課題を明確にすることができ、建物の形状による課題は、「エリアルール」で解決出来ました。
  • マニュアルは、「だれでも簡単に」を意識し、性別・年齢・生活様式を問わず、だれでも出来る手順を提案した結果、住民ひとりの活動がそのフロアで展開され、そこから上下フロアへ、そして建物全体へと波及するような仕組みを構築でき、「階段移動」や「住民のとりまとめ」という課題を解決できました。
  • 独自の被害想定や事前対策も掲載することで、「減災」も意識した内容となり、製作会社による構成の結果、より分かりやすくかつ実用的なものへ生まれ変わり、完全にオリジナルのマニュアルに仕上がりました。
  • 地震から5年たった今、道具を揃えただけでなく、「災害はいつ来るかわからない」という不安が、「いつ来ても大丈夫」という自信へ変わりました。
マンション見学ツアーという新たな防災訓練のカタチ
  • 防災訓練は「マンション見学ツアー」という名称で毎年の名物行事となり、これまでにはなかった参加者数で、近隣マンションを驚かせることもしばしば。ときには小学生の自由研究となり、ときには屋上ヘリポートでの記念撮影会、共用部分各所でのクイズ大会等という、新しいカタチでの訓練ができようになりました。

苦労した点・工夫した点

他力本願から自助と共助の精神へ
  • 企画立案から計画整備まで2年、整備完了から運用開始までさらに2年かかりました。その間、役員の改選もあり、話を白紙に戻されたり、議論が平行線をたどる、大幅な予算カット等の苦難がありましたが、何度も何度も提案を続けた結果、最終的にご理解いただき、「自助・共助」の重要性を理解いただきました。
人を魅せる見学ツアーのカタチ
  • 単純に案内しながら説明するだけでは、頭に入りません。しかし、実際に「その場所」に行き、「聞こえる音」、「漂う臭い」を感じてもらい、「自分のマンションって実はすごいんだ」と魅せる演出を心がけました。
  • それでも毎年やっても陳腐化しないよう、クイズを入れたり、他のマンションでの担当者の失敗談、これまでの管理組合の記録などをお話ししながら、説明が一方通行にならないよう、フランクに、対話形式で実践的な内容で行いました。その結果、ファミリー世帯を中心に多くの支持をいただき、安心感につなげていただけました。

管理組合・居住者の声

住民の皆さまからはこんな声が寄せられています。
  • マンションの地下にこんな設備があったなんて知らなかった。
  • 実際に触れたり操作できるとは実用的。毎年開催してほしい!
  • 他のマンションに住んでいる友達にも紹介してあげたい
  • これまで無関心だった住民たちに「防災」の意識が出てきたと思う
「防災マニュアル」について
  • 各階、上下階での連携については素晴らしい案だと思います。日常的にこれを意識していれば、いざというときに助かります。
  • 防災訓練は、各階単位、上下階単位で実施してみると面白いし、実用的ですね。また、自分たちのチームに誰がいるか、訓練を通じて知ることが出来ます。ありがとうございました。
「防災用品」について
  • 防災用品を各階に設置してくださったことは本当にありがたいです。地震が起きたとき、階段移動がなにより大変でした。荷物をもって階段を昇るなんて無理!でも、自分の階に元々備え付けてあれば安心です。
  • いままでマンションの備蓄品については全く知らなかった。でも、マニュアルには細かく書いてあるし、自分たちが何を準備しなければならないかもよくわかりました。これを元に準備していきたいと思います。

実施にかかった費用

収入増や支出減となった費用