マンション管理
適正評価部門
佳作
マンション管理適正評価制度で
★5を獲得するまでの2年間の道のり
株式会社長谷工コミュニティ 重野 理紗子
背景
- 今回ご紹介するのは、2012年3月竣工の大阪市の分譲マンションで、シングル~ファミリー層向けと様々な部屋タイプがあり、子供からお年寄りまで幅広い年齢層が住まわれるマンションとなります。
- 居住者間の交流が活発なマンションで、様々なイベントを開催されています。特に人気のあるイベントは、年末の餅つき大会で、居住者が自らスーパーに買い出しをして子供たちも一緒に餅をつき、最後には参加者全員で記念写真を撮影することが恒例となっています。
- また、防災対策となる消防訓練もイベントの一環として積極的に実施されていました。しかしながら、新型コロナウイルスの流行によりイベントや消防訓練は与儀なく中止せざるを得なくなり、理事の方々は居住者間の交流の機会が極端に減ったのを悩みとされ、コロナ禍が落ち着いた後の消防訓練の再開をどうすべきか、従来の内容に工夫は必要無いか等の意見が聞こえるようになりました。
- そのような中、マンション管理適正評価制度・管理計画認定制度が開始され、理事会で制度内容のご説明をした際、消防訓練の実施により大きく点数が上がることに理事会が注目し(未実施だと-5点、実施だと+3点)、イベント再開の契機になればとの思いもあり、両制度への申請を前向きに検討を進めることとなりました。
- この経緯から管理会社フロント担当者としては期待に応えたい思いもあり、高い評価点が得られるように取り組むことといたしました。
目的
- 管理組合理事会では、住民間交流の活性化のために従前のようにイベント開催が定期的に実施できないかとの思いが背景にあります。マンション管理適正評価制度・管理計画認定制度が開始されるに伴い、目的を以下に定めて両制度への申請を実施することとし、実現に向ける動きが始まることになりました。従来の住民間交流の活性化を発展させ、更にマンションの管理全般の定められた基準を高めるという、大きな枠組みで真剣に取り組むことを目的とされております。
①マンション管理適正評価制度の点数を上げる取り組みを行うことで居住者間交流イベント再開の一助とする。
②適正評価制度の登録にあたり、居住者間交流だけでなく、他の管理項目の基準も高めて良い点数で登録する。
③適正評価制度の登録だけでなく、管理計画認定制度でも認定を受け、両方の基準を満たす管理組合になること。
実施内容
「★5」と「適合」の評価を獲得するための取り組み~その1~
教養型消防訓練の実施
- コロナウイルスの感染対策と防災意識の向上の両立ができる方法を模索した結果、今回は教養型消防訓練を新しく採用しました。大阪市中央消防署が作成した映像資料(消火・避難・通報訓練の解説動画)をQRコードで手軽に読み込めるようにし、各家庭で動画を視聴していただきました。動画を見て終わりではなく、穴埋め形式の理解度チェックテストを作成し、答え合わせをして管理事務室ポストへ提出して消防訓練完了といたしました。
ハザードマップの掲示
- 災害が発生した時どのような被害にあう可能性があるのか、避難場所はどこなのかを居住者全員に把握してもらうため、行政が発行しているハザードマップを掲示いたしました。
入居者名簿の更新
- 前回更新が2017年で、当時の名簿とは各住戸の人数や連絡先が変わっていることが予想されました。これらの情報を事前に把握しておくことで緊急時の安否確認がしやすくなるため、入居者名簿の再提出をご協力いただきました。
長期修繕計画の見直し
- 5年に1度の長期修繕計画の見直しの時期であったため理事会にて内容を確認し、あわせて修繕積立金改定を行いました。生活に直結する内容のため合意が取りづらい内容ですが、マンション管理適正評価制度が定める基準があることで、定期総会へ上程する際も説得力が生まれました。
「★5」と「適合」の評価を獲得するための取り組み~その2~
- 当初の評価時点より更に点数の向上が見込める項目については、高い点数での登録を目指すため、以下のことに重点的に取り組みました。
管理規約の改正
- 当マンションの管理規約(2012年作成)の中で、国土交通省が定める最新の標準管理規約の内容を反映できていない部分があったため、当マンションに合った内容での管理規約の改正を定期総会に上程し承認を得ました。
(例:災害時における管理組合の意思決定について、窓ガラス等の改良工事の定めについて等)
支出会計の見直し
- 連結送水管耐圧試験費を修繕積立金会計から支出していましたが、これが修繕積立金会計から管理費会計への充当があるとみなされました。改めて管理規約の内容を見直し、このような定期的に支出が予想される項目は「特別の管理に要する経費」には当たらず、管理費会計から充当するべきだということを認識していただき、予算計上時に是正を行うこととなりました。
実施結果
- 当初の評価では、マンション管理適正評価制度は★4の75点、管理計画認定制度は不適合の扱いでしたが、その結果を受け止め、管理組合理事会と管理会社で評価を上げるための取り組みを実施し、マンション管理適正評価制度で★5の98点とし、★が1つ増え、点数も23点と大きく上げることができました。
- 管理計画認定制度についても、2023年10月時点で申請途中ですが、事前確認の段階では問題はなく認定評価が得られる予定となっております。
- 今回をきっかけに取り組んだ教養型消防訓練では、多くの住戸から理解度チェックテストの提出をいただき、居住者の皆様も訓練実施に対する意識が高まっていることを改めて感じました。
- マンション管理適正評価制度がなければ、消防訓練の実施再開はまだまだ先になっていたはずであり、マンションという集団の中でできる防災対策を含め、住民間交流の機会づくりは工夫すれば出来るものとして、改めて考えるきっかけとなりました。
- コロナの流行も落ち着いてきましたので、今後は対面型の消防訓練や餅つき大会・夏祭り等のイベント再開を理事会と共に検討して参ります。
苦労した点・工夫した点
- 一番苦労したことは、当マンションが管理会社の支店内で初めての申請であり、どのような管理方法が有効であるのか分からない部分が多く、模索しながらの申請であったことですが、やっていく内に自分自身の理解も高まる機会となりました。
- 登録実現には、評価点数を増やせるところを管理組合様へ説明し、一緒になって1年かけて徹底的に改善いたしました。定期総会でもその経緯を丁寧にご説明したうえで、評価アップの内容を示し再申請の承認をいただきました。
- 2022年4月に開始したばかりの制度で費用対効果があるのか、管理組合では判断が付きにくいとの意見も出たが、申請がイベント再開という悩みの解決策ともなるため、管理組合様と同じベクトルで出発できたことが良かったです。
- 想定していなかった思わぬ減点項目がありましたが、定期的な設備点検や理事会運営等はできていたため、特別に費用をかけて新しく行う項目はありませんでした。今まで管理組合と管理会社で協力して当たり前に行ってきた管理について、評価基準という客観的な第三者指標を踏まえた場合、よりよい管理とはどういったものかが双方でイメージでき、登録迄のスピードアップに繋がりました。
管理組合・居住者の声
理事会役員や居住者から、以下のようなお声をいただきました。
- 定期総会でマンション管理適正評価制度・管理計画認定制度の申請について議題として上がり、自分たちのマンションの管理状況を客観的に考える機会ができました。
- 消防訓練の再開について、今回の定期総会で未実施の事実を改めて確認し、コロナウイルス流行も落ち着いてきたので防災対策として実施する必要性を感じました。
- 管理規約の見直しにあたり、「窓ガラスの改良」の手順について今までは「別に定める」との記述のみでしたが、標準管理規約に基づき明確な手順を定めることとなり理解が深まりました。
- 今まではイベントや修繕工事の実施検討が理事会の議題として多かったが、低評価だった項目の改善(=管理面の改善)に取り組む、という今までにない新たな視点ができたこと、また、従来の検討事項にも評価基準の視点が加わり、審議のレベルが上がったと思います。
実施にかかった費用
- マンション管理適正評価制度・管理計画認定制度への登録申請料のみかかりました。
収入増や支出減となった費用
- 特にありません。