410_管理組合運営の書類の整理について

管理組合運営部門

佳作

管理組合運営の書類の整理について

伊藤忠アーバンコミュニティ株式会社 中津 祐嗣

背景

  • クレヴィア南森町 THE FRONTは、大阪市北区の都心部に位置する築7年(2016年2月竣工)の物件であり、総住戸数56戸の中規模マンションである。
  • 本マンションの管理組合役員(理事会構成メンバーは、理事長1名、副理事長1名、理事3名、監事1名、計6名)は、通常、毎年7月開催の通常総会にて輪番制により改選(役職は互選)されるが、初めて管理組合役員となった人でも、中規模マンション特有の人間関係(互いの顔が分かり、声を掛けやすい関係)も相まって、管理組合への関心度やコミュニティ意識は比較的高い傾向にある。
  • 他方、昨今は、コロナ禍での苦難を経験したことを契機に、できるだけ密になる場所や対面協議を避けようとする傾向にあることに加え、館外居住者(賃借人が居住)が増加していることも相まって、管理組合役員及び管理受託会社関係者(フロント担当者、管理員)間において、管理組合の運営業務を円滑に遂行するためのコミュニケーション手段等が課題となっていた。
  • さらに、築7年が経過したことにより管理組合文書が漸増し、管理事務室の書庫保管スペースやパソコンハードディスクの容量にも限りがあることから、書類がブラックボックス化しないための類別整理のほか、文書(電磁的記録を含む)の保存年数について、何らかの基準が必要となっている状況にあった。

目的

管理組合運営のデジタル化の取組み
  • 管理組合の業務運営に関して、これまでの書面のやり取りを中心とした手法では、事案が発生したときに、対策を実行するまでに相応の時間を要するなどの問題点があり、理事会についても、コロナ禍等の影響や館外居住者の増加等により、これまでの対面協議では理事会開催要件の出席数を確保できない恐れがあった。そのため、これらの問題点を改善するためのコミュニケーション手段等として、デジタル化の取組みを検討する必要があった。
管理組合文書の見える化及び保存期間の明確化
  • 築7年を経過したことで管理組合文書が漸増して、どこに何の文書が保管されているのかが分からない、ブラックボックス化する恐れがあり、誰が見ても分かるような類別整理等の検討を行う必要があった。
  • これまで管理組合文書の保存期間に関する基準について合意形成ができておらず、管理員が交代した際に、誤廃棄の発生リスクがあり、書庫保管スペースやパソコンの容量にも限りがあるので、保存期間を明確化するための基準作りを急ぐ必要があった。

実施内容

文書管理細則
書庫保管資料等一覧表
管理組合運営のデジタル化の取組み
  • 管理組合役員改選の都度、管理組合役員及び管理受託会社関係者間で電子メールを活用することにより、相互コミュニケーションや情報共有化の促進を図るとともに、事案へ迅速に対応できる体制を整えることとした。
    【具体事例】居住者から管理組合に対し、1階に設置している「ご意見箱」に投書があった場合、管理員が直ぐに関係者へ電子メールにて情報を共有化し、その場で対応できない場合は、直後に開催する理事会で協議することとし、その対応結果については、館内掲示又は理事会ニュース(投書主が特定できないように配慮)により居住者へ周知する体制に改善した。
  • 理事会は、WEB会議システム(アプリ「Cisco Webex meetings」)を活用し、諸事情により対面協議に参加できない人や館外居住者でもオンライン参加を可能とした。
  • 居住者から「通常総会もオンライン参加できるようにして欲しい」とのご意見があり、理事会で検討の上、2022年7月30日開催「通常総会」へ議案上程した結果、通常総会は議決権行使を伴うため、通信不安定による影響を考慮して、事前に議決権行使書の提出を前提として、同システムを活用したリモート視聴参加を可能とした。
管理組合文書の見える化及び保存期間の明確化
  • 管理組合文書を大まかに6分類(①竣工・分譲時関係書類、②管理組合業務運営関係書類、③管理委託契約関係書類、④法定点検及び保守点検関係書類、⑤修繕工事関係書類、⑥居住者関係書類)に区分して類別整理したうえで、書庫のどこに何の文書が保管されているのか、誰が見ても分かるように、「書庫保管資料等一覧表」を書庫側面に貼り付けた。
    「書庫保管資料等一覧表」の概要は、以下の通り。
    書庫の場所別(上段、中段、下段)に文書内容を列記し、それぞれの保存期間を付記
  • 文書管理上、一定の基準らしきものが必要ではないかとの考え方に基づき、「文書管理細則(内規扱い)」を作成し、2023年4月理事会において協議の上、当面内規として運用することについて承認を得て、現在運用中。
    「文書管理細則(内規扱い)の概要は、以下の通り。
    条文構成:第1条(定義)、第2条(文書管理責任者)、第3条(保存年限)、第4条(廃棄)、第5条(個人情報の管理)、第6条(業務の委託)、第7条(細則の改廃)、別表「管理事務室保管文書保存基準(1.永久保存、2.10年保存、3.5年保存、4.3年保存、5.1年保存、6.その他)

実施結果

管理組合運営のデジタル化の取組み
  • 管理組合役員及び管理受託会社関係者間で電子メールを活用することにより情報の共有化等が促進され、通常2箇月おきに開催する理事会開催を待たずに、事案を迅速に対応することができ、用紙の削減効果にもつながった。
  • 理事会は、オンライン参加を可能としたことにより、当日、対面協議に参加できない方でも参加しやすくなり、出席率の向上に寄与した。
  • 通常総会は、事前に議決権行使書を提出することを前提にリモート視聴を可能としたことにより、当日、対面協議に参加できない方でも視聴することができ、参加意識の醸成につながった。
管理組合文書の見える化及び保存期間の明確化
  • 「書庫保管資料等一覧表」を作成し、書庫側面に貼り付けたことにより、管理員不在時の代行管理員が勤務した場合においても、文書の所在が直ぐに分かるため、居住者や不動産仲介会社からの問合せに対し、迅速に対応することができた。
  • 「文書管理細則案」を作成し、2023年4月8日開催「理事会」において協議の上、当面内規扱いでの運用が決議されたことにより、保存期間が過ぎた文書を分別するなど、文書整理の効率化に寄与した。今後は、大規模修繕工事が予定されていることもあり、運用過程での問題点を含めて文書の取扱いを理事会で検討し、いずれは通常総会に議案上程してルール化を図ることとしたい。

苦労した点・工夫した点

管理組合運営のデジタル化の取組み
  • 当初、管理組合役員宛に電子メールを一斉送信していた際、一部の方より、個人情報の取扱いについて「他のメンバーに、自分のメールアドレスが知られるのは嫌だ。」との問題提起があったことを受けて、その後は、「個人情報保護の観点から宛名を非表示(BCC)とさせて頂きます。」旨を付記したうえで、宛先を非表示にしたうえで一斉送信するよう、改善した。
管理組合文書の見える化及び保存期間の明確化
  • 「文書管理細則」を作成するにあたり、他マンション管理組合の文書保存期間設定事例をインターネットで検索したが、公表されているものは少なく、具体的にどの文書を何年保存とするのかなどの考え方を整理することについて苦労した。そこで、法令に基づくものなどを精査したうえで考え方を整理し、例えば法定点検による設備点検報告書については、行政機関の通達などを調べて、保存期間が明記されているものについては、それに準ずることとした。

管理組合・居住者の声

管理組合運営のデジタル化の取組み
  • 1階に設置している「ご意見箱」に管理組合へのご意見を提出された方から、その後、「この度は、当方の苦情意見について、迅速に対応して頂きありがとうございました。」、「当方が提案した件は、前向きに検討して頂き、ありがとうございました。」旨、謝意のお手紙があった。
管理組合文書の見える化及び保存期間の明確化
  • 不動産仲介会社からの問合せがあった際に、ご説明したところ、「いつも、迅速かつ丁寧に対応して頂き、ありがとうございます。」旨、御礼の言葉あり。
  • また、代行管理員から、探したい文書が何処に保管されているのかが直ぐに分かるので、有難い。」との言葉あり。

実施にかかった費用

  • いずれも費用はゼロ。

収入増や支出減となった費用

  • 特になし。