59_高経年マンションにおける漏水事故の削減に向けた、15年にも亘る長期的な取り組み。-管理組合と管理員が協力して居住価値及び資産価値の向上を実現-

マンションライフ部門

佳作

高経年マンションにおける漏水事故の削減に向けた、
15年にも亘る長期的な取り組み。
-管理組合と管理員が協力して居住価値及び
資産価値の向上を実現-

株式会社東急コミュニティー 大野 肇

背景

  • 私は定年後の平成20年に㈱東急コミュニティーに入社し渋谷区のハイツ千駄ヶ谷に通勤管理員として配属されました。
  • 当マンションは1971(昭和46年)年に竣工し配属当時は築38年経過の高経年マンションでした。
  • 建物は渋谷区の中でも自然が多く、静かな環境の千駄ヶ谷にあり、7階建てで51世帯が暮らしています。
  • 当時のマンションの課題は、以前の管理組合が長期的な修繕計画に基づく大規模修繕工事や排水管更新工事及び高圧洗浄工事等を実施していなかったために、漏水事故が共用部分と専有部分から多発し居住者には多大な損害とご迷惑をかけ、マンションの資産価値低下にも影響する状況でありました。

目的

  • 私が配属された時は、管理組合の理事長が交替し新体制となり、管理組合として漏水事故の削減を最重要課題として本格的に取り組むことになりました。
  • この時に現場の状態を良く把握している管理員にも、漏水事故の削減計画に参加要請があったため、管理組合と協力し長期的な計画で取り組むことになりました。
  • 築38年でしたので排水管には竣工当時の鋳鉄管が使用されていまして、老朽化が激しく、いつ漏水事故が起こっても不思議ではない状態でした。漏水事故を起こした鋳鉄排水管の断面を調査しますと、錆び汚れがひどく閉塞率が高くなっており非常に危険な状態でした。
  • この危険な排水管を鋳鉄管から新しく塩ビ管に更新工事をするには、長い期間と高額な費用、そしてなによりも所有者の漏水事故に対する危機意識が必要なために、短期では簡単にできるものではありませんでした。
  • このため長期的な視野での更新工事促進策と未更新所有者への危機意識の啓蒙が大きな課題でありました。    

実施内容

危険な排水管
排水管更新工事は、物件の売買時及びお引越しの 時に実施されるため、長い期間と高額な費用、そしてなによりも所有者の 漏水事故に対する危機意識の啓蒙が必要でした。
  • 排水管の現状アンケート調査の実施 排水管の現状調査のために平成21年から2回に亘り「排水管の流れに関するアンケート調査」を全居住者に実施し、排水管の状態と更新工事の有無について調査を行いました
  • 排水管高圧洗浄工事の隔年実施スタート 約10年が経過し、排水管更新住戸が80%を超えたため、令和元年より高圧洗浄工事を未更新住戸を除いて開始することができました。
  • 管理規約を変更し更新工事を条文化 管理規約を総会の承認を得て、「物件の売買の際は必ず排水管の更新工事をしなければならない」という厳しい条文を明記しました。
  • 内装工事申請書の変更と現場検証の実施 お部屋の内装工事申請書には、排水管更新工事の実施有無について追記し、又、更新工事の実施を検証するために、管理組合の工事担当役員と現場検証を実施しました。
  • 未更新所有者への意識改革を実施 未更新所有者への意識改革としては、「排水管更新工事の実施記録の配布」及び「老朽化した排水管の現物をロビーで展示」を都度実施しました。
  • 共用部分の排水管更新工事の計画的な実施 共用部分の排水管更新工事は管理組合が予算措置をとり、長期的な計画で確実に実施してきました。

実施結果

  • 平成21年の「排水管の流れに関するアンケート調査」の結果では未更新住戸が13戸(25%)ありましたが、長期的な各種促進策の成果により令和5年の時点では未更新住戸は6戸(12%)となり約54%も大幅に削減されました。    このために高圧洗浄工事が隔年実施できるようになったため、漏水事故の発生が劇的に減少しました。
  • 管理規約や内装工事申請書に更新工事の実施を明記し、追記したことにより、所有者や工事業者、不動産業者への理解が得られ、更新工事の指導がやりやすくなりました。
  • 排水管更新工事の実施記録の配布や老朽化した排水管の現物展示により、未更新所有者への危機意識の啓蒙が進みました。
  • 共用部分の排水管更新工事は計画的な工事により危険個所の約90%が完了しました。

苦労した点・工夫した点

  • 漏水事故を削減するための排水管更新工事は、物件の売買時及び賃借人のお引越し時にだけ実施されるために、 長い期間と高額な費用、そしてなによりも所有者の漏水事故に対する危機意識の啓蒙が必要なために、短期で簡単にできるものではありませんでした。
  • このため、平成21年から長期に亘る各種の促進対策を管理組合と協力し、15年間も忍耐強く継続実施してきた結果、令和5年の時点での成果が見えてきたために、今回のアワードに応募することにしました。
  • また、私が管理員として15年間も当マンションに継続勤務しているために排水管更新工事を継続的にフォローでき成果に結びついたと思います。

管理組合・居住者の声

ハイツ千駄ヶ谷管理組合の理事長からの評価
  • 15年前は老朽化した排水管のために、マンションの共用部分や専有部分において、漏水事故が多発し居住者には大変なご迷惑をお掛けし、多大な補修費用が掛かっていました。
  • このため管理組合としまして格的に漏水事故削減に取り組み始めた時に大野管理員が配属されてきたため、現場を良くご存じの管理員にも参加をお願いしました。
  • 各種の更新工事促進策のアイデアや、未更新所有者への意識改革等にも積極的に取り組んでもらった結果、現時点では漏水事故が激減し、マンションの資産価値が高まったものと喜んでおります。
  • 15年間に亘り、管理員業務の一環として、更新工事促進策実行の中心人物として忍耐強く取り組んでいただいた結果です。
  • 管理組合としましてはその功績を高く評価しています。

実施にかかった費用

収入増や支出減となった費用