242_閉鎖したプール跡地を新たな多世代交流の拠点として再生 ~築50年超となる大規模マンションの共用部リニューアル計画~

マンションライフ部門

部門賞

閉鎖したプール跡地を
新たな多世代交流の拠点として再生
~築50年超となる大規模マンションの
共用部リニューアル計画~

宮前平グリーンハイツ管理組合

大成有楽不動産株式会社 川村 章司

背景

  • 宮前平グリーンハイツは1972年に竣工した全55棟・1,015戸の大規模分譲マンションで、86,633.96㎡もの広大な敷地の中にプール、テニスコート、ショッピングセンター、診療所が整備され(竣工当時)、約2,500人が暮らしている。
  • 竣工当時、プールは時代の先端をいくマンションのシンボル的な共用施設で、居住者の誇りだった。しかし、竣工当時はファミリー世帯が中心だったマンション居住者も高齢化が進み、プール利用者が減少。加えてプール設備の老朽化もあり2013年に閉鎖。マンションの新たなシンボルとなる共用施設へのリニューアルを約7年かけて検討を進めた。
  • 全55棟が広大な敷地に点在するために棟ごとにコミュニティが完結しており、マンション全体としての居住者同士のコミュニティ形成に課題があった。

目的

  • プール跡地が広大なマンション敷地の中心に位置する特性を活かし、自然と「顔見知り」をつくることができるオープンな「多世代交流の拠点」となる共用施設とすることを目指した。

実施内容

バリューアップのための実施内容
時間をかけて議論を重ね、10年・20年先を見据えた共用施設を検討
  • 管理組合では築40年となる2010年に「将来構想プロジェクトチーム」を結成し、住民の実態調査や意識調査、勉強会を実施。2013年のプール閉鎖以前から、今後老朽化が進む共用施設改修の検討をスタートしていた。
  • プール跡地の検討にあたっては、竣工当時からの居住者の高齢化が進んでいる一方で、新たに住み始めたファミリーが増加するなど、幅広い世代が住んでいる実態に着目した。
  • 2018年に管理組合からの依頼を受けて、大成有楽不動産㈱がリニューアル提案を開始。跡地活用のアイディアとして「駐車場」「介護老人保健施設」「家庭菜園」「じゃぶじゃぶ池」などが挙がったが、いずれも利用者や対象世代が限定されるために不採用となった。居住者約40名(延べ人数)が携わり検討を進めていく中で、プール跡地のコンセプトを「高齢者と子どもたちの共生の場」とすることで整理されていった。
「プールの名残」と「余白」を残したリニューアル計画
  • プールは埋め戻して多目的広場「グリーンひろば」として、更衣室建屋は集会室「アトッチ」としてリニューアルした。
  • プール敷地は「一団地認定による建築制限」によって建替え・増築が困難な状況だったが、逆転の発想でプールの形を極限まで残したデザインを採用。プールのスタート台はベンチに、洗眼器は屋外シンクに変更し、プール時代からの敷地を囲むメッシュフェンスはそのまま残している。
  • グリーンひろばもアトッチも、利用方法を限定しないように造り込み過ぎず、10年・20年先を見据えアップデート可能な「余白」を残している。
工事概要
グリーンひろば
  • 旧プールを埋め戻し。旧大人プールはコンクリート舗装と人工芝に半面ずつに、旧子どもプールはゴムチップ舗装に変更。2020年1月竣工・敷地面積:約1,319.60㎡
アトッチ
  • 旧更衣室建屋を耐震補強し集会室にリノベーション。旧プール機械室はトイレに変更。2021年3月竣工・延床面積:110.79㎡・木造1階建て

実施結果

結果
  • コロナ禍の2020年竣工だったが、日常的に居住者が利用する他、様々なイベントを開催。一般的に共用施設の利用はマンション居住者に限定されることが多いが、当施設は近隣住民に開放し、地域とのつながりが生まれた。
  • プール時代からの敷地を囲むメッシュフェンスは、子どもが外からよく見え、飛び出す危険も無いとファミリーから好評。いつも誰かしら大人が滞在し、子どもの見守りも自然と行われているため、安全・安心な遊び場として定着している。
  • 子どもが当施設でよく遊んでいることをきっかけに、その親がアトッチ運営委員会のボランティア等に参加するケースもあり、高齢者中心だった管理組合運営に若い世代が関わる好循環を生み出している。
活用実績
グリーンひろば
  1. イベント(50周年記念式典・お花見会・フリーマーケット)の他に、子どもの遊び場として小学生がスケートボード、ラジコンなどで遊んでいる。今後、屋外音楽会を計画している他、コロナ禍で中止していたBBQや水遊び(コンクリート舗装面に簡易プールを設置)も解禁予定。
アトッチ
  1. 延べ来場者数約8,300人。居住者の作品展(絵画・書道・写真など)を毎月2回、延べ40回超開催。同じ趣味を持つ新たな人の輪が広がっている。「高齢者による子どもたちへの絵本の読み聞かせ」や「高齢者向けのスマートフォン教室」などを開催し、多世代の顔見知りを生み出した。

苦労した点・工夫した点

  • プール跡地活用で最もハードルとなったのは「合意形成」。居住者が多く世代も幅広く、共用施設に対する考え方はバラバラ。特にプールへの思い入れが強い竣工当時からの居住者(高齢者)からは取り壊しに反対の声が多くあったが、プールの名残を残したデザインが好意的に捉えられ、今では昔を懐かしむ高齢者が自然と集う憩いの場となっている。大規模分譲マンションが抱える「合意形成の難しさ」を、居住者の想いに寄り添ったデザインで解決している。
  • 一般的に共用施設の利用料を徴収して管理組合の収益とするマンションが多い中、グリーンひろば・アトッチは「利用料無料」とし、誰でも気軽に使用することができることで利用促進につなげている。さらに、マンション居住者のみならず、近隣住民にも開放し、地域とのつながりも生まれている。
  • 宮前平グリーンハイツが目指すのは「100年マンション」。築50年が経過し、他の共用施設でも老朽化が進んでおり、プール跡地の活用は「今後の共用施設のあり方」を決める試金石でもあった。グリーンひろば・アトッチの感想や利用状況などを問う居住者アンケートの声を実施しており、今後のコミュニティ施策や共用施設改修に活かす予定。

管理組合・居住者の声

グリーンひろば・アトッチを利用した居住者の声
  • フリーマーケットに参加。通りからも良く見えるので、興味を惹かれて立ち寄る人も多く、楽しいイベントになりました。(50代・女性)
  • プールの頃の雰囲気が残っていて良い。今後もできるだけ自由な使いやすい施設あって欲しい。(70代・男性)
  • 公園のように小さい子供が勝手に出て行ってしまうことが無いので、安心して遊ばせられます。(40代・女性)
  • お話し会で「アトッチ」に行くと、アートな空間で作品を見る度、グリーンハイツにはこんなにたくさんのアーティストの方々がいらっしゃることに驚きました。素敵だと思います。小さな子どもにとっても芸術に触れる機会があり、心豊かに育っています。(40代・女性)
  • グリーンハイツのほぼ中央にあるので使いやすく、プール跡地の利用としてはとても好感が持てます。(80代・女性)
  • プールの頃からあるメッシュフェンスのおかげで子どもたちが走り回っていても勢いで道路に飛び出してしまう心配がありません。イベントに参加すればおじいちゃん・おばあちゃん世代の方が親しみを込めて声をかけてくれます。そうして顔見知りの大人が増えることで、子どもたちを見守ってもらっていると感じています。子どもたちにも、グリーンひろばとアトッチなら安心して「遊んでおいで」と言ってあげられます。(30代・女性)

実施にかかった費用

総事業費:66,726,000 円
第1期工事
  • 多目的広場「グリーンひろば」への改修工事:24,926,000円
第2期工事
  • 旧更衣室建屋を耐震補強し集会室「アトッチ」へのリノベーション工事:41,800,000円

収入増や支出減となった費用

支出減となった費用
  • プールの維持管理費:年間400~450万円
  • プールを継続する場合の改修費:約7千万円

プレゼンテーション資料

発表プレゼンテーション資料