193_複数の大型工事が到来する高経年マンションの課題解決に向けた修繕積立金会計の健全化プロジェクト

工事・メンテナンス
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複数の大型工事が到来する高経年マンションの
課題解決に向けた
修繕積立金会計の健全化プロジェクト

野村不動産パートナーズ株式会社 桒原 千朗

背景

マンション概要
  • 1988年分譲(築35年経過)全世帯47戸 建設地 東京都
高経年マンションの課題背景
  • 国土交通省の「平成30年度マンション総合調査」では、分譲マンションの約35%が、計画より資金不足となる傾向があります。特に築30年以降の高経年マンションでは、給排水管・エレベーター・サッシ更新工事なの大型工事が集中する時期でもあり、この時期の大規模修繕工事は、資金不足に陥りやすくなります。
本マンションの問題と現状
  • 本物件も、数年前から専有部分の排水枝管の漏水事象が発生し、排水管更新工事を前倒しすることになります。また、漏水部分が専有部分の枝管部分でもあり、単純な立管更新ではなく専有部分を巻き込んだ大掛かりな更新工事となりました。大規模修繕工事と専有部分の排水管更新工事の双方を同時実施するためには、試算で1住戸平均約75万円の大きな一時金が必要となっていました。
課題解決に向けた検討の開始
  • この2つの工事を進めるために、管理組合から補助事業などの検討をお願いされましたが、通常の補助事業では対応できない旨を説明した上で、このマンションの大規模修繕工事の事前調査・長期修繕計画の見直し・先進的なモデル事業として採用される可能性などを説明し、まずは、この二つの工事に対する詳細な調査に基づいた計画が必要なので、令和4年度に、国土交通省の「マンションストック長寿命化等モデル事業」の計画支援型事業に応募し、その解決策の試行を検討することになりました

目的

【計画支援事業の目的】ここまでの事業
  • 大規模修繕工事時期の先送りを可能とする技術的根拠の収集(保険の仕組みによる第三者の予備調査の実施&ドローン調査と5年間の防水保険と防水メンテンス工事の実施で管理組合の不安解消)
  • 今後5年間の共用部分修繕計画で修繕積立金の積み上がりによる工事実現(管理会社が、大規模修繕工事やその他共用部分修繕実施時期を検討)
  • 今後5年間に限らず、長期修繕計画での修繕積立金会計健全化に向けた提案(排水管の樹脂化による将来更新の不要化と大規模修繕工事内容の見直し)
  • 排水管更新工事への合意形成(樹脂化への理解・埋込配管の対処方法・専有部分工事の検討・遮音試験、オール樹脂化と課題となる取り合い工事と遮音対策を試験等で整理)
【工事支援事業の目的】これからの事業
  • 大規模修繕工事をメンテナンス工事による延伸の実現。(瑕疵保険により大規模修繕工事を延伸させるため、足場をかけない形でのメンテナンス工事の実施)
  • 瑕疵保険利用による大規模修繕工事の5年延伸と従来の大規模修繕工事瑕疵保険(10年)を組み合わせた保険利用による大規模修繕工事の長周期化
  • 異なったプランの混在するマンションの排水管更新工事による各系統別の課題解決(全戸調査に基づくプランの異なる各系統別の課題解決の実施)
  • 共用部分排水管更新後に集中した工事期間を定め、希望者に専有部分の給水・給湯管やユニットバス下の排水管更新に向けた改修工事の実施。(排水管更新工事の情報や全戸調査の内容を有効利用し、共用部分排水管更新工事で残された専有部分の既存配管を更新する。)

実施内容

アーバニティ王子 実施結果
複数工事が同時発生する高経年マンションの課題解決に向け、瑕疵保険を利用した大規模修繕工事の5年延伸提案による修繕積立金会計の健全化モデル
基本的な考え方
  • 保険を利用した大規模修繕工事の考え方 大規模修繕工事の実施時期に、修繕費が高額な排水管更新工事の前倒しが必要となり、双方の実施に向け、独自の新しい保険の仕組み(事前の調査・メンテナンスを行うことにより大規模修繕工事の着工時期を遅らせ、その間に修繕積立金会計を健全化する仕組み)を活用することにより、単純に大規模修繕工事を先送りにするのではなく、雨水・漏水等のリスクを回避し、修繕積立金会計の健全化を図ることで実施時期を延伸させる計画とした。新しい瑕疵保険活用においての保険の条件となる外壁や屋上防水のメンテナンス補修工事では、外壁クラックの補修等を、足場をかけずに実施。
実現に向けた検討
  • 当社独自の瑕疵保険活用のための検証について、瑕疵保険の成立条件を確定させる目的で、建物全体のドローンによる可視カメラ・赤外線カメラによる不良個所の洗い出しと保険会社の既存建物状況検査の実施によるメンテナンス工事の特定。その工事に合わせた仮設足場をかけずに行なうメンテナンス工事の検討
大規模修繕工事を5年延伸する効果の検証
  • 大規模修繕工事を、メンテナンス工事と保険利用により、5年先に実施することで、5年間の修繕積立金の積み上がりによる2つの大型事業の実現とその他の工事を視野に入れた共用部分全体の実施計画を見直し、一時金出費がなく必要工事が実施できることを確認できるまで、全体内容を精査する。
共用部分排水管更新工事の課題解決(金属配管の樹脂化・集合管の採用・大きな躯体埋込部分)並びに排水管更新後の課題解決(ユニットバス下の排水枝管と給水・給湯管の配管更新)に向けた提案
全戸調査による排水管更新工事の精査
  • 通常、排水管更新工事の場合は、代表的な住戸の調査をベースに見積をし、その後、工事をしながら清算していく流れが主流である。今回は、補助事業を取得したことにより、計画のスタート段階で、代表住戸だけではなく全戸の調査を実施し、工事系統ごとにより詳細な検討を実施した。さらに、今後の専有部分工事を含めた利用を念頭に、全戸調査内容と過去のリフォーム履歴を住戸ごとに整理した記録を作成した。
専有部分の3Dデータの有効利用
  • 専有部分の全戸調査では、ご了承いただいた住戸は水回りの3Dデータを取得し、既存の住戸パターン19戸の平面図と展開図を作成し、今後の専有部分の配管更新工事の元図面としても活用する予定である。さらに、先行する共用部分排水管更新工事の配管工事写真についても、残された専有部分配管更新工事の際に有効であり、共有データとする。
集合管の採用
  • 調査の結果、3系統が竣工図面と比べ立管の本数が異なり、コストUPとなった。このコスト削減や将来のメンテナンスも考慮し、立管の本数を減らすため集合管の採用を検討したが、集合管は排水音の課題があり遮音試験を実施し、遮音仕様を特定した。
埋込部分等の仕様決定
  • 70㎝埋め込まれた排水管について、専有部分の状況も確認し、更新工事ができない箇所として確認の上、将来のメンテナンスも含めた再生工事としての提案を行った。また、防水工事を5年先送りしている関係で、通気管についても同様の仕様を検討し提案とした。

実施結果

アーバニティ王子 実施結果

苦労した点・工夫した点

保険利用による大規模修繕工事の延伸
  • インスペクションによる保険利用での大規模修繕工事を延伸は、既存住宅に対しての当社独自の試みでもあり、その保険の成立条件の精査の為、ドローンを利用し、赤外線による浮きの確認と高感度カメラによるひび割れの全面把握を実施した。それをベースに協議をし、メンテナンス工事を確定した。この打合せで、今後、他マンションで本保険の利用が可能となるレベルまで協議した。
全戸調査による新しい事業モデル
  • 全戸調査では、各住戸の3Dデータによる座標化を試み、リフォーム履歴調査、配管調査と合わせて、専有部分の今後の修繕に利用できる情報を整理した。具体的にこのデータをベースに、希望住戸に対し、共用部分修繕から専有部分の一斉改修工事につなげていく事業モデルとして検討した。
リフォーム先行住戸の考え方
  • リフォーム先行住戸のリフォーム状況を確認し、枝管更新にあたり「洗面所の床を撤去・復旧」の有・無で差があることを確認し、その箇所の修繕積立金の使用額を計算し、総会にて提示した。
再生工事の検討
  • 70㎝の埋込部分に対して、12㎜の膜厚を確保できる再生工法を検討。この工法で30年後に再施工することで、60年のメンテナンスを確定、また、本仕様を通気管にも使用することで、5年先に延伸した防水工事との取合いをしない工事とした。

管理組合・居住者の声

  • 計画支援型事業完了の説明後、前年度の理事長より、「ここまで修繕積立金に対して真剣に考えていただいたことはありがたい」と感謝の言葉をいただきました。
  • 調査でも、ご理解の言葉や事業に対する励ましの言葉をいただきここまで来ておりますので、本格的な工事は今後となりますが、今後アンケートなどで、皆様の声を確認していきます。

実施にかかった費用

【合計】概算 9144万円(税込)
  • なお、実際の管理組合が負担した(する)額は、上記の金額から補助金額を差し引きした金額になります。
【計画支援事業】これまでの費用:概算 184万円(税込)
  • 第3者調査:概算 9万円(税込)
  • ドローン調査:概算 72万円(税込)
  • 計画支援事業の検討:概算 103万円(税込)
【工事支援型事業】今後の工事:概算 8960万円(税込)
  • 延長メンテナンス工事:概算 132万円(税込)
  • 保険費用:概算 14万円(非課税)
  • 保険会社の検査費用:概算 14万円(税込)
  • 排水管更新工事:概算 8800万円(税込)

収入増や支出減となった費用

樹脂化による将来コストの削減(30年後は、更新工事→再生工事のみの対応となる)
  • 概算:42,600千円(税抜)
  • 現時点での単価で推計、金属管での更新予定年度(2073年度)での削減額
防水工事状況のインスペクションにより、次回大規模修繕工事のコスト削減 (改修状況の確認により、次回大規模修繕もアスファルトかぶせ工法で実施)
  • 概算:6,270千円(税抜)
  • 2028年度事業の削減額
単独周期の防水工事を大規模修繕工事の周期を合わせることの効果
  • 概算:3,260千円(税抜)
  • 防水工事1回の削減効果
  • 上記が本提案による支出減であるが、メインは修繕積立金の健全化であり、主に大規模修繕工事の施工時期を延伸による支出減や収入増でなく工事時期の移動による健全化での各年度の黒字化を目指した。
  • 上記提案の減額提案以外にメンテナンス工事等の出費もあるが、延伸によって各期赤字の回避を実現した(2024年からの赤字状態をすべて黒字化)
  •  2028年の修繕積立金残高を、約380万円の赤字から約470万円の黒字と健全化した。

部門賞プレゼンテーション資料

マンションバリューアップアワード 発表プレゼン